ヒップホップ名曲のサンプリング元ネタ10選!

レコードとターンテーブルが床に置かれている。10 Icoinc Samples のロゴ

サンプリングは、ヒップホップを語るうえで欠かせない文化だ。

古いレコードからフレーズを抜き出し、ループさせ、ビートを加える。それだけで、全く新しい音楽が生まれる。今でこそオリジナルトラックで楽曲制作をするのが一般的になったが、ヒップホップ黄金期と言われる90年代では、ヒットチャートに並ぶ曲も多くがサンプリングによって作られていた。

情報の少ない当時は、元ネタを探し当てること自体が、ヒップホップを聴く醍醐味のひとつだった。

ヒップホップ名曲のサンプリング元ネタ10選!

今回は、ヒップホップ好きなら誰でも聴いた瞬間にピンときそうなサンプリングの元ネタ12曲を紹介する。何度も聴いたあの曲のルーツを知ると、ヒップホップの楽しみ方がさらに広がるはずだ。

では、さっそくチェキ!

The Charmels – “As Long As I’ve Got You”

1967年にリリースされた The Charmels“As Long As I’ve Got You” は、スウィートソウルの中でも特に美しいメロディを持つ一曲だ。The Charmels はグループとして大きく成功することはなかったが、この曲は後にヒップホップの名曲でサンプリングされ、時を超えて知られる事に。

この曲をサンプリングして最も有名になったのが、Wu-Tang Clan“C.R.E.A.M.”(1993年)。
プロデューサーの RZA は、この楽曲の冒頭部分をそのままループさせ、ダークでシリアスなヒップホップ・アンセムへと昇華させた。”C.R.E.A.M.” の持つ哀愁とストリートのリアリティは、元ネタの持つ空気感と完璧にマッチしている。

“C.R.E.A.M.”El Michels Affair がカバーしたヴァージョンがあり、それが再びヒップホップのプロデューサーたちにサンプリングされるという興味深い流れも生まれている。

The Charmels – “As Long As I’ve Got You”


Wu-Tang Clan – “C.R.E.A.M.”

Enya – “Boadicea”

Enya – “Boadicea”(1987年)は、その幻想的な雰囲気と浮遊感が特徴的な曲で、後に多くのアーティストにサンプリングされることとなった。Fugees – “Ready or Not”(1996年)では、この曲がメインのサンプルとして使用され、Lauryn Hill のボーカルと Enya の神秘的なサウンドが見事にマッチし、グループの世界的成功を後押しした。

ヴォーカルのモチーフとして引用されたのは The Delfonics – “Ready or Not Here I Come”(1968年)。甘く滑らかなハーモニーと洗練されたメロディが特徴のフィラデルフィア・ソウルの名曲だ。

Fugees はこの曲で二つの異なる楽曲を融合させ、全く新しいサウンドを生み出し、ヒップホップの新しい可能性を世に示した。

ちなみに、The Delfonics の曲は、Missy Elliott「Sock It 2 Me」(1997年)にもサンプリングされるなど、ヒップホップやR&Bに大きな影響を与え続けている。

Enya – “Boadicea”


Fugees – “Ready or Not”

Michael McDonald – “I Keep Forgettin'”

1982年にリリースされた Michael McDonald“I Keep Forgettin’ (Every Time You’re Near)” は、ブルー・アイド・ソウルの代表的な楽曲のひとつ。Doobie Brothers のボーカルとしても知られる彼のハスキーボイスとメロウなメロディが際立つ名曲だ。

イントロのベースラインとドラムのリズムはシンプルながら印象的で、後にヒップホップのプロデューサーたちに注目され、多くの楽曲でサンプリングされることになる。

最も有名なのが、1994年の Warren G & Nate Dogg – “Regulate”。G-funk の象徴ともいえるこの曲は、オリジナルをほぼそのままサンプリングし、West Coast ヒップホップの代表曲となった。Warren G は、メロウな雰囲気を活かしつつビートを加え、ラップに合う形へとアレンジしている。

このサンプルは、Shaquille O’Neal – “I Can’t Stop the Reign”(1996年)などでも使用され、90年代のヒップホップやR&Bに欠かせない存在となった。

Michael McDonald – “I Keep Forgettin'”


Warren G & Nate Dogg – “Regulate”

Bob James – “Nautilus”

1974年にリリースされた Bob James “Nautilus” は、ヒップホップ史上最も多くサンプリングされたジャズ・フュージョンの楽曲のひとつ。ジャズ・ピアニストとして知られる彼が手がけたアルバム “One” のラストを飾るこのインストゥルメンタル・トラックは、当初あまり注目されなかったが、90年代に入るとそのドラムブレイクや幻想的なシンセがヒップホップのプロデューサーに発掘され、数え切れないほどの楽曲にサンプリングされた。

“Nautilus” の特徴は、ゆったりとしたドラムと浮遊感のあるシンセの組み合わせ。ミステリアスな雰囲気がヒップホップのビートに馴染みやすく、90年代のアンダーグラウンド・ヒップホップで多用された。

代表的なサンプリング例として、Slick Rick – “Children’s Story”(1988年)が挙げられる。”Nautilus” の持つミステリアスな雰囲気と、Slick Rick の卓越したストーリーテリングが融合し、ヒップホップ史に残る不朽の名作となった。この曲は、道を踏み外した少年の悲劇的な物語を、まるで映画のように描写しており、その物語性と “Nautilus” の印象的なサウンドが組み合わさることで、後世のアーティストたちに多大な影響を与えた。

そのほかにも、Ghostface Killah – “Daytona 500”(1996年)、Run-D.M.C. – “Beats to the Rhyme”(1988年)など、クラシック・ヒップホップで多数使用され、その影響力は絶大だ。

“Nautilus” は単なる元ネタではなく、サンプリングの魅力を示す好例。原曲を聴けば、その浮遊感のあるサウンドがヒップホップとどのように融合しているのかがよく分かる。

Bob James – “Nautilus”


Slick Rick – “Children’s Story”

The Incredible Bongo Band – “Apache”

1973年にリリースされた The Incredible Bongo Band “Apache” は、ヒップホップ史上最も有名なブレイクビーツのひとつ。もとは1954年に The Shadows が発表したインスト曲だが、The Incredible Bongo Band 版はファンキーなアレンジが施され、原曲とはまったく異なるサウンドになっている。最大の特徴は、曲の後半に登場するドラムブレイク。パーカッションと絡むこのビートは、ブレイクダンスやDJカルチャーにも大きな影響を与えた。

最も有名なサンプリング例が、Sugarhill Gang – “Apache (Jump On It)”(1981年)。このブレイクを活かしたパーティーチューンで、ヒップホップのクラシックとなった。また、Nas – “Made You Look”(2002年)では Salaam Remi がこのブレイクをサンプリングし、クラシックなヒップホップのグルーヴを2000年代に蘇らせた。

さらに、Grandmaster FlashDJ Kool Herc らがプレイしたことで、”Apache” はヒップホップカルチャーの象徴となった。シンプルながらエネルギッシュなドラムのリズムは、今も多くのミュージシャン達に影響を与え続けている。

The Incredible Bongo Band – “Apache”


Sugarhill Gang – “Apache (Jump On It)”

Curtis Mayfield – “Move On Up”

1970年にリリースされた Curtis Mayfield – “Move On Up” は、ポジティブなメッセージとソウルフルなアレンジが特徴のファンク・ソウル・クラシック。The Impressions 時代から社会派ソウルを生み出してきた Mayfield が、ソロデビュー作 “Curtis”(1970年)で希望や向上心をテーマにした代表曲のひとつだ。

イントロのホーンリフが象徴的で、軽快なドラムとベースラインが絡み、ストリングスが彩りを添える。Mayfield の柔らかくも力強い歌声が「前を向いて進め」と語りかけるような楽曲だ。

この曲を最も有名にしたサンプリング例が、Kanye West – “Touch the Sky”(2005年)。プロデューサーである Just Blaze はホーンリフをループし、力強いビートを加えることで、エネルギッシュなトラックに仕上げた。さらに、Lupe Fiasco のゲストバースも相まって、2000年代を代表するヒップホップアンセムとなった。

“Move On Up” は、希望や挑戦といったテーマがヒップホップとも完璧にマッチし、サンプリングによって世代を超えて受け継がれた名曲の好例といえる。

Curtis Mayfield – “Move On Up”


Kanye West – “Touch the Sky”

Chic – “Good Times”

1979年にリリースされた Chic – “Good Times” は、ディスコとファンクの歴史を語る上で欠かせない1曲。Nile Rodgers(ギター)と Bernard Edwards(ベース)を中心に結成された Chic は、洗練されたサウンドとグルーヴィーなリズムで70年代のディスコシーンを席巻した。

イントロの跳ねるようなベースラインとカッティングギターが生み出すシンプルながら心地よいリズムが特徴。この曲はディスコブームの象徴となっただけでなく、ヒップホップ誕生にも大きく貢献することになる。

最も有名なサンプリング例が、1979年の Sugarhill Gang – “Rapper’s Delight”。”Good Times” のベースラインをそのまま使用し、「史上初のヒップホップのヒット曲」となった。

“Good Times” は、シンプルながらどんなジャンルにも馴染む普遍的なグルーヴを持つ。ディスコの枠を超え、ヒップホップやファンク、さらにはロックにまで影響を与えた、サンプリング文化の原点ともいえる一曲だ。

Chic – “Good Times”


Sugarhill Gang – “Rapper’s Delight”

David McCallum – “The Edge”

1967年にリリースされた David McCallum – “The Edge” は、ヒップホップのプロデューサーたちに愛され続けるインストゥルメンタルの名曲。俳優でもある McCallum が手がけたこの曲は、David Axelrod のプロデュースによる独特なサウンドが特徴で、アルバム “Music: A Bit More of Me” に収録されている。

最大の魅力は、浮遊感のあるストリングスと重厚なドラムブレイク。イントロの不穏なストリングスとドラムが絡み合い、サスペンス映画のような雰囲気を醸し出し、後のヒップホッププロデューサーたちを惹きつけた。

最も有名なサンプリング例が、1999年の Dr. Dre – “The Next Episode”。Dreはこの曲のイントロをサンプリングし、G-funk 特有のバウンシーなビートと融合させ、あの曲を生み出した。これにより、”The Edge” は90年代後半のヒップホップシーンで再び脚光を浴びることになった。オーケストラとドラムの融合が、ヒップホップのビートと完璧にマッチする名曲だ。

David McCallum – “The Edge”


Dr. Dre – “The Next Episode”

Joe Cocker – “Woman to Woman”

1972年にリリースの Joe Cocker – “Woman to Woman” は、ブルースやソウルの要素を取り入れたロックナンバー。情熱的な歌唱で知られる Cocker だが、この曲は彼の代表曲というより、後にヒップホップ界で再評価された一曲だ。

イントロのエレピとストリングスの組み合わせ。シンプルながらドラマチックなメロディに、力強いドラムとホーンが加わり、楽曲にエネルギーを与えている。このフレーズが後にヒップホップの名曲へと生まれ変わる。

最も有名なサンプリング例が、1995年の 2Pac – “California Love”。プロデューサーの Dr. Dre は “Woman to Woman” のイントロをそのまま使用し、G-funkのビートと融合させ、西海岸ヒップホップのアンセムへと昇華させた。”California Love” は2Pacの代表曲のひとつとなり、ヒップホップ史に残るクラシックとなった。

オリジナルを聴けば、”California Love” の高揚感がどこから来ているのかがよく分かる。ロックとソウルが融合した独特のグルーヴが持つ熱量が、ヒップホップへと見事に転用された好例だ。

Joe Cocker – “Woman to Woman”


2Pac – “California Love”

Ronnie Foster – “Mystic Brew”

1972年リリースの Ronnie Foster – “Mystic Brew” は、ジャズ・ファンクの名曲。オルガン奏者として活躍した Foster が、ジャズとファンクを融合させた独特のサウンドを生み出した。デビューアルバム “Two Headed Freap” に収録され、当初は注目されなかったが、90年代以降ヒップホップのプロデューサーに再発見された。

この曲の魅力は、浮遊感のあるエレピとグルーヴィーなベースライン。スローテンポで幻想的な雰囲気があり、繰り返されるベースラインがヒップホップのトラックに影響を与えた。

最も有名なサンプリング例が、A Tribe Called Quest – “Electric Relaxation”(1993年)。”Mystic Brew” のメロディをそのまま活かしたトラックに Q-TipPhife Dawg のレイドバックしたラップが乗っかり、ジャズ・ヒップホップを象徴する楽曲となった。また、J. Cole – “Forbidden Fruit”(2013年)でもサンプリングされ、2000年以降のヒップホップにも影響を与えている。

オリジナルを聴けば、ジャズの空気感とヒップホップのビートが絶妙にマッチしていることがよく分かる。世代を超えて受け継がれる、ジャズとヒップホップの架け橋となる一曲だ。

Ronnie Foster – “Mystic Brew”


A Tribe Called Quest – “Electric Relaxation”

サンプリングという文化の奥深さ

今回、10曲のヒップホップのサンプリング元ネタを振り返ってみたが、改めて音楽の奥深さを実感させられる内容だった。オリジナル曲の持つ魅力が、新たな文脈で生まれ変わり、時代を超えて愛され続けているのが面白い。こうした楽曲のつながりを知ることで、ヒップホップという音楽もより一層楽しめるのではないだろうか。

サンプリング文化は、単なる「借用」ではなく、リスペクトとクリエイティビティが交差する場でもある。今後も、こうした名曲たちのルーツを掘り下げる記事を継続していく予定なので、気になった曲があればぜひチェックしてみてほしい。

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